学習塾が倒産後も

私は大学4年間ある塾で個別指導のアルバイトをしていました。その塾は私が中学生の時に通っていた塾で、当時は生徒も先生も凄く多く、全盛期だったと思います。その頃は進学塾で、難関中学、高校への受験指導をしてくれる塾でした。

その塾に最初からいた古株の先生から、大学入学と同時に家に電話がかかってきて、「個別指導も始めたからアルバイトに来ないか?」と誘いがあったので、自分が通っていた塾で気心も知れているという事で直ぐに決めました。

その古株の先生は塾長と若い頃から友達のようで、その塾を一緒に立ち上げたとの事でした。塾長はちょっと気難しいような雰囲気の人でしたが、その古株の先生は、私が生徒の頃からとても気さくで優しく、生徒からも大人気の先生でした。その先生が個別指導のアルバイトの管理を全般的に引き受けていたので、夏休みに海外旅行に行きたくて「まとめて休みを取りたい」と言っても、合わない生徒がいて「変えて欲しい」と言っても、全て要望を聞き入れてくれるので何とも居心地のよい職場でした。アルバイト仲間も、ほとんどが元塾生なので、みんなその先生の教え子で、居心地良さそうに伸び伸びとアルバイトを続けていたと思います。

ですが、1年ごとに何となく塾全体に活気が無くなっていっているような印象はありました。私達の頃はビルを4ヶ所ぐらい借りていたのに、年々閉鎖されていき、最後は本部がある1ヶ所だけになりましたし、その3階建ての教室全てがいつもパンパンだったのが、段々使われていない教室も出て来ました。

「塾の経営が傾いているのかな?」とも思いましたが、凄く居心地が良いし、何より時給が凄く良く、定期的にその古株先生が飲み会を開いてくれて焼肉食べ放題、カラオケなど全て奢りだったので、「まあ大丈夫でしょう」とアルバイト仲間みんなが軽く考えていたと思います。でも、使われていない教室、つまり電気がつけられない教室が増えていき、本気でビル全体に明るさが無くなってきた時に、その古株先生からアルバイト全員が呼び出されました。

「塾が倒産したから」との事でした。話しを聞いてみると、3ヶ月ほど正社員の先生達はお給料が払われていないとの事でした。私達アルバイトにはきっちりお給料が振り込まれてきたのですが、それは実は古株先生のポケットマネーから払われていたのでした。先生は自分が呼び集めた元教え子だから自分に責任があると思っていたようでした。でも、塾長だって、私達が生徒の頃から塾長だったのだから元教え子なわけだし、合格率にも貢献してきたのに、自分は知らん顔かと思うと腹が立ちました。

どうも、その塾長が株か何かに手を出し失敗したようでした。最後は自己破産したとの事ですが、その古株先生から倒産の事実を聞いてからは一度も塾長に会う事はありませんでした。私が知っている塾長は凄い大きな外車に乗り、恰幅も凄くいい人だったので、これでもかと言うほど偉ばっているように見えました。

でも運悪く、その倒産宣言があったのがちょうど年末で、もう少しで受験という時期だったのです。なのでその古株先生から頼まれて、自分の担当している生徒の受験が終わるまではアルバイトを続けるようにお願いされました。

「お給料はどうなるの?」と不安はありましたが、その古株先生が「アルバイトには迷惑かけないように自分が何とかするから」と言うし、さんざんお世話になってきたのに今更「一抜けた」とも言えず、そのお願いをみんな承諾しました。

それからはアルバイト仲間が顔を合わせると、「お給料って貰えるのかな?」と言い合っていました。ですが、最後のアルバイトが終わって1ヶ月ほどしたらきちんとお給料が振り込まれていました。「お給料が貰えるのかな?」という不安もありましたが、何とも言えない雰囲気に巻き込まれたり、その古株先生に申し訳ないような気持ちになったりと大変な思いもしましたが、その先生の生き様は勉強になったと思います。でも、そんな良い先生がいなかったら、ちょっと傾きかけているようなアルバイト先はさっさと辞めた方が得策だと思います。