不良生徒の家庭教師で時給5,000円

私は時給5000円で家庭教師のアルバイトをしたことがあります。きっかけは私が有名国立大学に在学中だった事と、その大学に偏差値30台から這い上がって合格した事を知り合いの社長が知って気に入られたことでした。生徒さんはその社長の一人息子で、小学校時代から不良道を突っ走っており、中学もロクに通ってないという有り様でした。

高校3年まで何をしていたのかと言えば親の金を使い込んで家の中でパーティを繰り返しており、悪い友人関係がどんどん広がっていました。当然、学校の成績は最下位クラス、だからこそ学費をバイトで稼いで苦学の末に大逆転合格をした私に、息子の更生を含めて受験勉強の面倒を依頼してきたわけです。

仕事の内容は時期に応じて変化し、最初の段階ではともかく机に座らせる事に苦労しました。何しろ字も満足に書けません、自分の名前さえフニャフニャしていて小学生の様であり、18歳の字とは思えませんでした。粘り強く彼に接している内に、パーティと悪い仲間たちに飽きていた彼が私の話を聞きたがるようになりました。

私の貧乏話が裕福に暮らしてきた彼の興味を引いたらしく、自分の境遇と比較していつも笑っていました。そして次第に仲良くなっていく内に、私の逆転合格について興味を持つようになり、自分にもできないだろうかと問うてくるようになりました。彼自身、心の底では堕落した生活に嫌気がさしていたらしく、加えて成績最下位から一気に全国上位になれるチャンスを掴んで色気が出てきたように見えました。

それ以降、仕事の内容は学問中心となり、1日あたり3時間の授業で15000円を頂いて帰る日が始まりました。授業は基本的に週に3回ですので週に45000円という破格のアルバイトでしたし、待遇面でも立派な家の設備を使い放題ということで、生徒さんに問題を解かせている間にフカフカのソファーでコーヒーを飲んで少しだけリッチな思いもできました。

ただ、良い面ばかりではなく、とても押しの強い、我が子への溺愛にあふれた社長だったので「高い金を払っているのだから、なんとしても結果を出せ」というプレッシャーは働いた10ヶ月間、常に付きまといました。生徒さんとの関係は付き合う内にどんどん良くなり、勉強が軌道に乗ってきた頃には、社長からプレッシャーをかけられている僕を哀れんで同情してくれるほどになりました。

悪いことを続けてきた子でしたが、根っからの悪人ではなく気に入った人、師事する人の言いつけだけはキッチリ守るという一面も持っていたようで、僕の言いつけをよく守り、多すぎるくらい出した課題を残さずクリアして成績もグングン伸びていきました。これにスッカリ気を良くした社長は私にボーナスをくれました。現金でポンと10万円くれたこともあれば、接待でもらってきた高級腕時計や財布なんかも「どうせいらないから好きにしなさい」と気前よくプレゼントされました。

結果を出さなければ怖い社長ですが、結果を出す人にはとことん優しく、それが我が子の更生と成績アップにつながっていたため、私は秋を過ぎた頃には社長のお気に入りになっていたように思います。知り合いの息子の家庭教師ということで口約束で始めた美味しいアルバイトでしたが、知り合い故にいつでも連絡がつくためプライベートへの影響は小さなものではなく、夜中でも休日の朝方でも「今すぐ来てほしい」と言われれば、もらっている対価の関係上、断ることはできないため私にとって決して楽な仕事ではありませんでした。それでも十分過ぎるお給料と、お金持ちの生活を体験できた事、そして生徒さんが見事に有名大学に合格した事への謝礼として高級車をいただいたので、私にとって忘れられないリッチなアルバイトだったことは間違いないです。